子育ての中でつい出てしまう「否定の言葉」。
「早くしなさい」「まだできてないの?」「なんでそんなことするの」──親としては善意のつもりでも、子どものやる気や自己肯定感を奪ってしまっているかもしれません。
本書『子どもを否定しない習慣』は、企業研修やリーダー育成の実績を持つエグゼクティブ・コーチの林健太郎さんが、親子関係をより良くするための「否定しないコミュニケーション」についてまとめた実践書です。
「叱るのは悪いことではない。でも、感情的に否定していないか?」「その声かけ、子どもを動かすどころか萎縮させていないか?」──本書はそんな問いかけをしながら、子どものやる気と自己肯定感を育む親のかかわり方を教えてくれます。
子育てに悩んでいる親はもちろん、人間関係全般において「共感力」を高めたい人にもおすすめの一冊です。
子どもを伸ばす 否定しない関わり方3選

①感情的にならず、対話を意識する伝え方・叱り方

本書の第三章では、子どもへの伝え方・叱り方について詳しく解説されています。
なかでも印象的だったのは「感情をそのままぶつけてしまうのはNG」という指摘です。親がイライラしたまま叱ると、子どもは「何がいけなかったのか」よりも、「怒られた恐怖」の方を強く感じてしまいます。
大切なのは、感情に任せず一呼吸おくこと。まずは3秒ほど間をとり、感情を落ち着ける。そして「聞く」「伝える」「話し合う」という対話の姿勢に切り替えることが求められます。
さらに、「やってはいけないこと」を教える場合も、一方的に話すのではなく、子ども自身の考えを引き出すことが大切です。
「どう思う?」「何がいけなかったかな?」と問いかけることで、子どもは自分の行動を振り返るきっかけを得られます。こうした対話の積み重ねが、自分で考えて行動できる力や責任感を育むのです。
②「やる気」を引き出す声かけの工夫

人は「自分で決めたこと」には自主的に取り組む傾向があります。これは子どもにも当てはまり、親からの命令ではなく、自分で決めたことには前向きに取り組みやすくなります。
たとえば、「早く片付けなさい」と命じるのではなく、「あと何分したら片付けられそう?」と問いかけ、子ども自身に決めさせる。このように、自分の意志で動くための“コミット(=自分でやると宣言)”を引き出す声かけが有効です。
また、約束を守れなかったときも、「どうしてできなかったの?」と責めるより、「次はどうしたい?」と未来志向の問いかけをすることで、自立のトレーニングにもつながります。
本書で紹介されている「子どもを気持ちよく動かす否定しない会話術」の一部を、以下にまとめます。
否定しない会話術の参考例
- コミットさせる
例:「あと何分したら片付けられそう?」
→ 命令ではなく、子ども自身に選ばせる。 - ベネフィットを掘り下げる
例:「片付けたらおもちゃが行方不明にならないし、おもちゃも喜ぶかもね!」
→ メリットを伝え、行動の価値を感じさせる。 - やることを細かく分ける
例:「まずはこの机の上だけやってみよう」
→ ハードルを下げて、始めやすくする。 - ゲーム化する
例:「○分で終わったらパーフェクトクリア!」
→ 嫌なことを楽しいことに変換する。 - チャレンジ精神・反発心を刺激する
例:「ちょっと難しいかな?お兄ちゃんにはまだ無理かもね」
→ “できるところを見せたい”という気持ちを引き出す。
こうした声かけによって、子どもの気持ちは「やらされる」から「やりたい」へと自然にシフトしていきます。小さな工夫ですが、積み重ねが大きな変化につながるので、ぜひ試してみてください。
③「どうしたい?」で引き出す自己肯定感

本書の中で強く推しているのが“魔法の言葉”「どうしたい?」です。これは、子どもが自分の気持ちや考えを言葉にし、自分で選ぶ力を育てるための問いかけです。
子どもが悩んでいるとき、失敗して落ち込んでいるとき、つい親はアドバイスや指示をしたくなります。でもそんなときこそ、「どうしたい?」と問いかけて、子ども自身の内側にある答えを引き出すことが大切だと著者は伝えています。
そして、その答えを親がすぐに直そうとしてはいけません。「そう思ったんだね」「そう考えたんだね」とまずは受け止める。この“否定しない承認”の積み重ねが、自己肯定感をぐっと育てていくのです。
自ら考え、自ら選択した決断を成功や失敗にかかわらず積み重ねていくことで、子どもは徐々に「自分の人生を自分で歩む力」を身につけていきます。
まとめ

✅ 感情に負けず、「叱る」より「対話」を意識する
✅ 子どもの“やる気”を引き出す
✅ “どうしたい?”という魔法の問いが、子どもを育てる
子育てにおいて「否定しないこと」は簡単ではありません。忙しい日々の中で、つい口を出したり、思い通りに動いてくれない子どもにイライラしてしまうのは、どの親にもあることです。
でも本書を読むと、「まずは否定から入らずに子どもの話を聞いてみよう」「どうしたい?と問いかけてみよう」と、一歩引いた視点を取り戻すことができます。そして、否定しない子育てとは、子どもが自分で考えて動けるようになるための土台作りであり、同時に親自身をラクにしてくれる習慣でもあると気づかされます。
「子育ては1日にして成らず」という言葉の通り、すぐに変化が見えるわけではありません。完璧には程遠く、できるようになったと思ったら振り出しに戻ることもあるでしょう。それでも、「否定せず、共感し、問いかける」ことを繰り返していくことで、少しずつ子どもとの関係があたたかく、しなやかになっていきます。
より良い親子関係を築きたい方、子どもに自分で考えて行動する力を育んでほしい方、そして人との関わりの中で共感を大切にしたいすべての人に、本書はやさしく、力強く背中を押してくれる一冊です。
書籍情報
【書籍名】子どもを否定しない習慣
【著者名】林健太郎
【出版社】フォレスト出版
【出版日】2024/8/9
【項数】256ページ
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